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おおおかえちぜん

大岡越前

吉川 英治

「日光」1948(昭和23)年9月~1949(昭和24)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 218,436 字 · 437 页

青空文庫

かれらの、仲間心理にいわせれば、

(ナニ、真人間へ。それやア誰だって、考えねえ馬鹿はあるもんか。だがいまさら、てめえひとりで、いい子になろうったって、そうはゆかねえ。虫がよすぎらあな)

そういうにちがいないのである。

その夜――

この秋を、書に親しんで、燈下しずかに、過去の非を心から洗っていた市十郎の書斎へ忍びこみ、眼ざしすごく、四隣のしじまを憚りながら、ささやき寄って来た従兄の亀次郎の姿にも、そんな考え方が宿っていた。

「ふん、勉強か、於市。……ええ、おい。いやに学者ぶッて、なにを読んでるんだい」

と、亀次郎は、縁がわから身伸びして、市十郎の倚っている机の上をのぞきこみ、

「なアんだ、論語か。いまさら、論語でもあるめえに、子曰クなんて寝言をおさらいして、どうする気だい。自体、孔子なんて野郎は、正直者を食いものにする大嘘つきのいかさま師だ。何より証拠は、世の中を見ろ。どこに孔子のいッてる“道”なんてものがある?」

日ごろ憎悪する相手にめぐりあって、いきなりその面の皮へツバしてかかるように、彼は罵り出した。

「孔子だの、釈迦だの、法然だの、どいつもみんな、鹿爪らしい嘘ッ八の問屋じゃねえか。