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おおおかえちぜん
大岡越前
吉川 英治
「日光」1948(昭和23)年9月~1949(昭和24)年12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 218,436 字 · 437 页
「それに較べれば、越前どのの事件などは」
「軽い軽い。それ故にこそ、上様が、この藪八に申しつけて、何とか、表面に出ぬように済ませろ――と御内意あったくらいなのだ。しかし、われらの才覚では、到底、越前どのの、決意を曲げられず、また、北町奉行の攻勢を防げぬとあれば」
「そうだ、藪八どの。……こうなれば、鶴の一声。それを仰ぐしか、術はなかろうて」
「うム。申しあげてみよう。上様にも、おそらく、思し召し違いはあるまい」
その日、藪田助八は、お燕の身や、あとの要心を、楽翁に托して、ひそかに、江戸城の吉宗へ、会いに行った。
しかし、その手順も、難かしいのか、あるいは、吉宗の容れるところとならなかったか、藪八は、次の日、また次の日も、この隠れ家には帰って来なかった。
その五、六日の間に――である。
江戸の町々には、毎夜、奇怪な事件が、幾つも起った。
“女の追剥ぎ”
“女の高札斬り”
夏の夜々の涼み台では、その噂でもちきりだった。男女の心中とか、幽霊が出るとか出ないとか、陳腐な夏の夜ばなしとちがい、これは耳あたらしい事件なので、涼み台には恰好な話題ではあった。
江戸の蝙蝠
上野を追放になった寺侍の大内不伝は、さっそく、下谷の練塀小路の裏に借家して、その日のうちに、蓮見茶屋の世帯道具を、運ばせていた。