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おおおかえちぜん

大岡越前

吉川 英治

「日光」1948(昭和23)年9月~1949(昭和24)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 218,436 字 · 437 页

青空文庫

断行

断行

「番太郎っ、ここを開けろ。腰障子を」

ふたりは、縄付のお袖をそこの土間へ連れこむと、ほっと、炎のような大息をつき、番屋の中の片隅へ、へなへなと、崩れるように、腰をついてしまった。

「…………」

左右太も義平太も、もう何もいう気力はない。

これで、越前守様の運命も、はや、決まったと、思うだけであった。

どうしても、泣けてくる。泣くまいとすればするほど、こみあげてくる。

いかに、江戸町奉行という重職にあるとはいえ、これほどまでに、しなければならないだろうか。

義平太の父、市川楽翁が、いつも激越な自信をもって、その非をいってやまない声が、たちまち、二人の耳に、甦っていた。

――とはいえ、もうお袖に縄をかけた今夜、何を今更、考える余地があろう。おそらく、これを知ったら、市川楽翁は、自説の破れを悲憤して、自刃するかもわからない。いや、慥にするといっていた。あの老人のこと、言を、ひるがえすはずはない。

「……自分らも、生きてはおれぬ」

ふたりはもう言外に、それを誓いあっていた。もう一名の同僚、小林勘蔵とて、いさぎよく、自決の道をとるだろう。

「……何たることだ。