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おおおかえちぜん
大岡越前
吉川 英治
「日光」1948(昭和23)年9月~1949(昭和24)年12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 218,436 字 · 437 页
事件のかたちは終って、事件が生んだ災厄の家の、一人一人の運命は、それから新たな長い地獄の旅に立った。大岡亀次郎などの転落もまさに、その一つである。いや、大岡十家のうちの一人であり、また亀次郎とは、従弟にあたる市十郎――すなわち越前守忠相もまた、あやうくも、同じ危険な崖ぷちを人生の道として歩いたうちの一人だった。
同じ、大きな時代的災厄の悲運から突き出されて、同じ危険な谷や崖を歩いて来ながら――従兄の大亀は今、白洲の縄付として、人生の悲惨な最後に直面し、自分は、高き座にあって、人間の裁きをしている! ――この相違を、越前守は、そら怖ろしい心地で、彼と自分との間に見た。
彼と、自分と、どこがどれほど違うだろう。
人間として、何も、違いはしない。
彼の生活力や、一部の才智などは、むしろ彼の方が勝っているくらいなものだ。
違ったのは、ただ、どこかの道の岐れ目で――ふと自分は、良心の指さす方へ従って来たことだけだ。ほんの、一歩の岐れ目でしかない。
それも、全部が自分の意志力ではなかった。兄主殿の愛と、師の同苦坊から大喝棒の大愛を受けたのが契機だった。
(思えば、自分の今日は、ただそれらの機縁と一歩によく恵まれたというだけの者でしかない。