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おおおかえちぜん
大岡越前
吉川 英治
「日光」1948(昭和23)年9月~1949(昭和24)年12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 218,436 字 · 437 页
その組屋敷に、自分を待っている者とは誰か? ――越前守はいぶかりながら、がらんとした奥の広間まで通った。
一瞬――彼はハッと足をとめた。
大廂から木洩れ陽の射す廊下を横に、ずらりとそこに居並んでいる顔ぶれを見ると、何と、越前守の知らない顔ぶれは一つもない。それは皆、日常、公務のあいだに密接な関係をもっている者ばかりだ。
寺社奉行の牧野因幡守英成、久世大和守。また若年寄板倉伊予守だの、側用人石川近江守の姿も見える。公儀目付、松平藤九郎と有馬源之丞などもいるし、殊に、越前守とは、同じ町方奉行の職にあり、常に、南と対立的に噂されている北町奉行の中山出雲守もまた同席していた。
(これは? ……)
と、さすがの彼も眼をみはったのである。
宛として、この顔ぶれは、龍ノ口評定所の総員だ。そも、何のために、こんな場所に集会して、自分を待ったのか。
「おう、大岡どの。さ、こちらへ、こちらへ」
寺社奉行の牧野因幡守は立って、彼を迎え、一同の中ほど、彼と隣り合せに、席を占めた。
「いったい、ここのお寄合いは、何の為でございまするか。越前には、とんと不審で、御挨拶のいたしようもござらぬが」