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おおおかえちぜん

大岡越前

吉川 英治

「日光」1948(昭和23)年9月~1949(昭和24)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 218,436 字 · 437 页

青空文庫

それより少し前に。

用人の嘉平という老人。また若党、仲間たちは、お縫の部屋に、お縫が見えないのに騒ぎ出して、こっちへ向って駈けていた。

その跫音と、提灯の光りを見――味噌久は、あわてふためいて、泣きぬくお燕を横抱きにかかえ直し、これは丘の裏の、町へ抜ける方の小道へ、ころげるように逃げ出した。

屈強な若党のひとりが、それと一足違いに登って来て、いきなり、

「この女め」

と、お袖を捉えて叩き伏せた。泣き狂い、泣きさけぶのを、わけも糺さず、二つ三つ、足蹴をくれて、悶絶させた。

お縫もそこに、泣き伏している。

この態に、嘉平はしばらく、狐にツマまれたような顔をしたが、若党仲間たちへ、何事かささやいて、かれはお縫ひとりへ、あらゆる宥りをかけた。そしてお縫は泣く泣く嘉平に伴われ、やしきの方へもどって行った。

その後。

若党と、仲間たちは、気を失ったままのお袖を、粗末な駕籠に押しこんで、丘の裏から夜の町へ担ぎ出した。四谷の窪をひた走りに駈け、茗荷畑、市ヶ谷並木――なお止まらずに駈けてゆく。

何かの弾みに、駕籠のうちで、ふと、息をふき返したお袖が、くやしげな嗚咽をもらすと、