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おおおかえちぜん
大岡越前
吉川 英治
「日光」1948(昭和23)年9月~1949(昭和24)年12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 218,436 字 · 437 页
真ひるの闇
お厩河岸にはこれが多い。――市十郎はそこへ連れこまれ、
「まあ、掛けねえ」
と、阿能十のさす一つの床几へ、腰をかけた。
「お祝いだ。きょうはおれにも祝っていいことがある。――おい、亭主、熱いのを燗けてくれ。そして何か美味い肴をな」
かれも、床几に片胡坐をかきこんで、前屈みの小声になり、半分口を抑えながら語った。
「かわいそうなのは、お人好しの味噌久だが、これで一件は、めでたく落着だ。奉行なんてやつあ、自分が切腹とでもなると、何をやるか分らねえ。――さっきの裸馬を見たろうが。あの三人の下手人のうち、久助は、半分下手人といってもいいだろうが、後の二人は、奉行の身代りだよ。どこかの唖乞食か、半馬鹿の罪人をつかまえて、お犬殺しに仕立てたにちげえねえ。ふふふふ、こッちにとっちゃあ勿怪のしあわせ。いずれ根よく潜っていたら、大概、こんな片付きかたをするんじゃねえかと思っていたのさ」
そしてまた、不敵に、こうもいった。
「なあに、老中だって、将軍だって、柳沢次第の世の中だアな。奉行も、切腹と来ちゃあ堪らねえから、そこはそれ、柳沢の御簾中筋へ、廻すものを廻しさえすれやあ、どんなにでもなることさ。