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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
07 第七分冊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 200,903 字 · 400 页
「お風邪のおからだで、この雨気のなかを夜徹しのお歩行。お疲れもひと方ではござりますまい。城内へお入りあそばしたら一刻もはやく身を温めてお寝みなされますように」
と、口々に云い合った。
「そうしよう。そうしよう」
まことに彼は素直な主人であった。家来たちの忠言をよく肯き、またよく一同の心配を分ってくれる。こうした主従の情には蜜のごときものがあった。
馬の口取は、藤田伝五。大手の松原前にかかると手綱をとめ、介添えして鞍わきへ立つ。そして光秀が降りると、馬を部下にあずけ、自分は主人に添って、濠橋へ歩いてゆく。
そこに光春の家臣が堵列していた。ひとりの老臣は、傘をひらいて、恭しくさし出した。それを四方田政孝がうけ取って主人の上に翳しかける。藤田伝五は、光秀の蓑を持つ。
光秀は濠橋のうえを歩んで行った。濠の水は湖水とつづいている。欄の下をのぞくと、水は青く、橋杭の根をめぐって、白い水鳥が、花を撒いたように游んでいた。このあたりの汀にたくさんいる鳰であった。
「今暁からお待ち申しておりました」
城門へ出て迎えていた従兄弟の左馬介光春は、そこに数多並んでいた諸士をうしろに数歩出て、まず礼を行い、そこから先導して大玄関へ入った。