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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
07 第七分冊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 200,903 字 · 400 页
というと、光忠は歯がみをして、なお暴れながら、
「ば、ばかをいえっ。これしきの傷が何だ。戦場へ返せ。返せと申すにっ」
と、もがいた。
けれどもかなり重傷だったので、大地へこぼされて行く血しおとともに、その声も次第に弱まった。
光忠が退くと、光秀はすぐ本能寺を引き揚げて来た四方田政孝をその手の大将に補充して、
「時移すな」
と、そう急攻撃を命じた。
政孝は、大手へ臨むとすぐ、
「そこらの木を伐って、濠の中へ抛りこめ」
と、士卒を督した。
六、七十本の木材が濠の中へ落された。それを筏に組んでいるいとまもなく、明智の猛士たちは跳び渡って、石垣の下へゆく。そして石垣の隙に、足懸りを打ちこんでは、上へ上へと攀じのぼった。
しかし、ここの石垣はふつうの石垣組とややその線がちがっている。二条城の普請の当初、光秀も奉行の一員として加わっていたので、彼は独特な築城技能をもって石垣の縦の線に、弓なりの反りをもたせて築いてあった。
そのために今、明智の士卒は途中までは登ってゆけたが、ようやく上の近くまで達すると、自分の体の重量でみな下へ落ちてしまうのだった。
光忠に傷を負わせて、同時に斬り死にした織田家の士は猪子兵助だといわれている。