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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

07 第七分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 200,903 字 · 400 页

青空文庫

「考えてみなさい、明智どのが乱の直後、早速に市中へかかげた軍令というのを聞いても、わが軍は決して天下をうらむ者ではなく、織田殿の年来の悪弊を討ったに過ぎず、わけても朝廷を仰ぎ奉るの念にはもとより変るところあるべき理はないと唱えておるではないか。そしてこれからは、租税の地子銭も軽くする。大いに善政も布く。だから市民は安心して、常のとおり家業に励めと、高札に令しておられるではないか」

「…………」

「刀折れ矢尽きて、医家の垣の内に療治をうけている兵は、もう主を失った浪人じゃ。ただの一民じゃよ。いや元々から朝廷の御民であった者どもではないか。まして医家の眼から見れば、織田もない、明智もない、ひとしき御民としか見えん。御覧あれ。そこここには、明智衆の傷負いと、織田衆の傷負いと、枕をならべておるが、もうこの垣の内では、互いに、斬り結ぼうともしておらん。呻きと、痛手の顔をむしろお互いに、憐れみ合うかのごとく、黙って、顔見あわせているではないか。……彼も御民の子、これも御民の子、あらそい難い一つ血をもっている証拠じゃ。なお分らなければ、わしの書斎までござれ。むかし楠木正行が渡辺橋の合戦の折、足利の大軍を討って、暗夜の河中に溺れんとした足利の兵を救いあげて諭しおる一条が――あの太平記の中にある。