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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

07 第七分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 200,903 字 · 400 页

青空文庫

「む、む。……それゆえに筑前もちとこの入梅には滅入っておる。官兵衛、何ぞ名策はないか」

「きのうも今日も、前線をめぐり歩き、敵城の位置、四囲の地勢をつらつら見ますに、ここで乾坤一擲という大策は、ただ一つしかありません」

「高松の陥ちるか否かは、敵にとっても、味方にとっても、ただ一城を争うだけの問題ではない。ここが落ちれば、芸州吉田山の毛利の府は、はやわが掌中のものにひとしく、ここで蹉跌いたせば、五年にわたる中国攻略の業も一敗地に崩れを来すであろう。――大策こそよけれだ。官兵衛、お汝の考えは何か。次の間の輩も遠ざけてあれば、忌憚なくいって欲しい」

「おそれながら、殿にも、腹中の一案はおもちでしょう」

「ないこともない」

「さきにお伺いいたしましょう」

「お汝も書け」

傍らの硯をよせて、自分も筆をとり、官兵衛にも料紙を与えた。

秀吉の書いたのを取って、官兵衛が見た。「水」と一字書いてある。官兵衛が書いたのを取って秀吉が見た。それには二字「水攻」としてあった。

「はははは」

「あははは」

笑いながら、ふたりは、丸めた紙くずを、袂へ入れて、

「官兵衛。人の智というものは、やはり人の智以上には出ぬものだの」