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ちじんのあい
痴人の愛
谷崎 潤一郎
「大阪朝日新聞」1924(大正13)年3月~5月<br>「女性」1924(大正13)年11月~1925(大正14)年7月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 179,399 字 · 353 页
「だって、僕にダンスが出来るかなアなんて云ってたじゃないの」
ですから私は、そんな話が出るたびに、何だかナオミに済まないような気がしました。
「やれそうもないと思ったけれど、やって見ると愉快なもんだね。それにドクトルの云い草じゃないが、非常に体の運動になる」
「それ御覧なさいな、だから何でも考えていないで、やって見るもんだわ」
と、ナオミは私の心の秘密には気がつかないで、そう云って笑うのでした。
さて、大分稽古を積んだからもうそろそろよかろうと云うので、始めて私たちが銀座のカフエエ・エルドラドオへ出かけたのは、その年の冬のことでした。まだその時分、東京にはダンス・ホールがそう沢山なかったので、帝国ホテルや花月園を除いたら、そのカフエエがその頃漸くやり出したくらいのものだったでしょう。で、ホテルや花月園は外国人が主であって、服装や礼儀がやかましいそうだから、まず手初めにはエルドラドオがよかろう、と、そう云うことになったのでした。尤もそれはナオミが何処からか噂を聞いて来て「是非行って見よう」と発議したので、まだ私にはおおびらな場所で踊るだけの度胸はなかったのですが、