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ちじんのあい
痴人の愛
谷崎 潤一郎
「大阪朝日新聞」1924(大正13)年3月~5月<br>「女性」1924(大正13)年11月~1925(大正14)年7月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 179,399 字 · 353 页
「あたしこう見えても江戸ッ児よ、なりはどうでも穿きものだけはチャンとしないじゃ気が済まないわ」
と、此方を田舎者扱いにします。
小遣いなども、音楽会だ、電車賃だ、教科書だ、雑誌だ、小説だと、三円五円ぐらいずつ三日に上げず持って行きます。この外に又英語と音楽の授業料が二十五円、これは毎月規則的に払わなければなりません、と、四百円の収入で以上の負担に堪えるのは容易でなく、貯金どころかあべこべに貯金を引き出すようになり、独身時代にいくらか用意して置いたものもチビチビ成し崩しに崩れて行きます。そして、金と云うものは手を付け出したら誠に早いものですから、この三四年間にすっかり蓄えを使い果して、今では一文もないのでした。
因果な事には私のような男の常として、借金の断りを云うのは不得手、従って勘定はキチンキチンと払わなければどうも落ち着いていられないので、晦日が来ると云うに云われない苦労をしました。「そう使っちゃ晦日が越せなくなるじゃないか」とたしなめても、
「越せなければ、待って貰えばいいわよ」
と、云います。
「―――三年も四年も一つ所に住んでいながら、晦日の勘定が延ばせないなんて法はないわよ、半期々々にはきっと払うからって云えば、何処でも待つにきまっているわ。