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ちじんのあい

痴人の愛

谷崎 潤一郎

「大阪朝日新聞」1924(大正13)年3月~5月<br>「女性」1924(大正13)年11月~1925(大正14)年7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 179,399 字 · 353 页

青空文庫

の生活に取って邪魔でもあるので、向うも恐れをなしたでしょうが、此方も達て居て貰いたくはなかったのです。

そう云う訳で、月々の暮らしがそれだけは懸るとして、あとの百円から百五十円のうちから、月に十円か二十円ずつでも貯金をしたいと思ったのですが、ナオミの銭遣いが激しいので、そんな余裕はありませんでした。彼女は必ず一と月に一枚は着物を作ります。いくらめりんすや銘仙でも裏と表とを買って、しかも自分で縫う事はせず、仕立て賃をかけますから、五十円や六十円は消えてなくなる。そうして出来上った品物は、気に入らなければ押入れの奥へ突っ込んだまままるで着ないし、気に入ったとなると膝が抜けるまで着殺してしまう。ですから彼女の戸棚の中には、ぼろぼろになった古着が一杯詰まっていました。それから下駄の贅沢を云います。草履、駒下駄、足駄、日和下駄、両ぐり、余所行きの下駄、不断の下駄―――これ等が一足七八円から二三円どまりで、十日間に一遍ぐらいは買うのですから、積って見ると安いものではありません。

「こう下駄を穿いちゃたまらないから、靴にしたらいいじゃないか」

と云って見ても、昔は女学生らしく袴をつけて靴で歩くのを喜んだ癖に、もうこの頃では稽古に行くにも着流しのまましゃなりしゃなりと出かけると云う風で、