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ちじんのあい
痴人の愛
谷崎 潤一郎
「大阪朝日新聞」1924(大正13)年3月~5月<br>「女性」1924(大正13)年11月~1925(大正14)年7月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 179,399 字 · 353 页
あの頬ッぺたの真っ赤なのも、疑いもなく頬紅をつけているので、おまけにそんなリボンの鉢巻をした恰好は、気の毒ながらどう考えても化け物としか思われません。
「おい、ナオミちゃん、………」
うっかり私はそう云ってしまって、急いでさんと云い直してから、
「あの女はあれでもお嬢さんなのかね?」
「ええ、そうよ、まるで淫売みたいだけれど、………」
「お前あの女を知ってるのかい?」
「知っているんじゃないけれど、よくまアちゃんから話を聞いたわ。ほら、頭へリボンを巻いてるでしょう。あのお嬢さんは眉毛が額のうんと上の方にあるので、それを隠すために鉢巻をして、別に眉毛を下の方へ画いてるんだって。ね、見て御覧なさいよ、あの眉毛は贋物なのよ」
「だけど顔だちはそんなに悪かないじゃないか。赤いものだの青いものだの、あんなにゴチャゴチャ塗り立ててるから可笑しいんだよ」
「つまり馬鹿よ」
ナオミはだんだん自信を恢復して来たらしく、己惚れの強い平素の口調で、云ってのけて、
「顔だちだって、いい事なんかありゃしないわ。あんな女を譲治さんは美人だと思うの?」
「美人と云うほどじゃないけれども、鼻も高いし、体つきも悪くはないし、普通に作ったら見られるだろうが」