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ちじんのあい

痴人の愛

谷崎 潤一郎

「大阪朝日新聞」1924(大正13)年3月~5月<br>「女性」1924(大正13)年11月~1925(大正14)年7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 179,399 字 · 353 页

青空文庫

「ああ、暑、暑! どうだった、譲治さん、あたしの踊るのを見ていた?」

踊りが済むと彼女はテーブルへ戻って来て、急いでフルーツ・カクテルのコップを前へ引き寄せました。

「ああ、見ていたよ、あれならどうして、とても始めてとは思えないよ」

「そう! じゃ今度、ワン・ステップの時に譲治さんと踊って上げるわ、ね、いいでしょう?………ワン・ステップなら易しいから」

「あの連中はどうしたんだい、浜田君と熊谷君は?」

「え、今来るわよ、綺羅子と猿を引っ張って。―――フルーツ・カクテルをもう二つ云ったらいいわ」

「そう云えば何だね、今ピンク色は西洋人と踊っていたようだね」

「ええ、そうなのよ、それが滑稽じゃあないの、―――」

と、ナオミはコップの底を視つめ、ゴクゴクと喉を鳴らして、渇いた口を湿おしながら、

「あの西洋人は友達でも何でもないのよ、それがいきなり猿の所へやって来て、踊って下さいッて云ったんだって。つまり此方を馬鹿にしているのよ、紹介もなしにそんな事を云うなんて、きっと淫売か何かと間違えたのよ」

「じゃ、断ればよかったじゃないか」

「だからさ、それが滑稽じゃないの。あの猿が又、相手が西洋人だもんだから、断り切れないで踊ったところが! ほんとうにいい馬鹿だわ、耻ッ晒しな!」