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ちじんのあい
痴人の愛
谷崎 潤一郎
「大阪朝日新聞」1924(大正13)年3月~5月<br>「女性」1924(大正13)年11月~1925(大正14)年7月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 179,399 字 · 353 页
「そりゃそうさ、己あこれでも大いに研究したんだからな」
「何処で?」
「上野の平和博覧会でさ、ほら、万国館で土人が踊ってるだろう? 己あ彼処へ十日も通ったんだ」
「馬鹿だな貴様は」
「お前もいっそ万国館へ出るんだったな、お前の面ならたしかに土人とまちげえられたよ」
「おい、まアちゃん、もう何時だろう?」
そう云ったのは浜田でした。浜田は酒を飲まないので一番真面目のようでした。
「さあ、何時だろう? 誰か時計を持っていねえか?」
「うん、持っている、―――」
と、中村が云って、マッチを擦りました。
「や、もう十時二十分だぜ」
「大丈夫よ、十一時半にならなけりゃパパは帰って来ないんだよ。これからぐるりと長谷の通りを一と廻りして帰ろうじゃないの。あたしこのなりで賑やかな所を歩いて見たいわ」
「賛成々々!」
と、関が大声で怒鳴りました。
「だけどこの風で歩いたら一体何に見えるだろう?」
「どう見ても女団長だね」
「あたしが女団長なら、みんなあたしの部下なんだよ」
「白浪四人男じゃねえか」
「それじゃあたしは弁天小僧よ」
「エエ、女団長河合ナオミは、………」
と、熊谷が活弁の口調で云いました。
「………夜陰に乗じ、黒きマントに身を包み、………」