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ちじんのあい
痴人の愛
谷崎 潤一郎
「大阪朝日新聞」1924(大正13)年3月~5月<br>「女性」1924(大正13)年11月~1925(大正14)年7月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 179,399 字 · 353 页
「大久保さんの別荘には全体誰がいるんですね?」
「今年は皆さんが御本宅の方へお引き揚げになりまして、時々お見えになりますけれど、いつも大概熊谷さんの若様お一人でございますの」
「ではあの、熊谷君の友達はどうでしたろう? あの連中も折々やって来たでしょうか?」
「はあ、ちょくちょくおいでになりましてございます」
「それは何ですか、熊谷君が連れて来るんですか、めいめい勝手に来るんですか?」
「さあ」
と云って、―――これは私が後で気がついた事なのですが、その時かみさんは非常に困ったらしい様子をしました。
「………御めいめいでおいでになったり、若様と御一緒だったり、いろいろのようでございましたが、………」
「誰か、熊谷君の外にも、一人で来た者があるでしょうか?」
「あの浜田さんと仰っしゃるお方や、それから外のお方たちも、お一人でお越しになった事がございましたかと存じますが、………」
「じゃあそんな時は何処かへ誘って出るのですかね?」
「いいえ、大抵内でお話しになっていらっしゃいました」
私に一番不可解なのはこの一事でした。ナオミと熊谷とが怪しいとすれば、なぜ邪魔になる連中を引っ張って来たりするのだろう? 彼等の一人が訪ねて来たり、ナオミがそれと話しているとはどう云う訳だろう? 彼等がみんなナオミを狙っているとしたら、何故喧嘩が起らない