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ちじんのあい
痴人の愛
谷崎 潤一郎
「大阪朝日新聞」1924(大正13)年3月~5月<br>「女性」1924(大正13)年11月~1925(大正14)年7月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 179,399 字 · 353 页
僕はあなたを欺していたんです。それに就いてはたといどんな制裁でも、甘んじて受ける積りなんです。今更こんな事を云うのは変ですけれど、僕はとうから、………一度あなたにこう云う所を発見されるまでもなく、自分の罪を打ち明けようと思っていました。………」
そう云っているうちに、浜田の眼には涙が一杯浮かんで来て、それがぽたぽた頬を伝って流れ出しました。総べてが全く、私の予想の外でした。私は黙って、眼瞼をパチパチやらせながら、その光景を眺めていましたが、彼の自白を一往信用するとしても、まだ私には腑に落ちないことだらけでした。
「河合さん、どうか僕を赦すと云ってくれませんか、………」
「しかし、浜田君、僕にはまだよく分っていないんだ。君はナオミから鍵を貰って、此処へ何しに来ていたと云うんです?」
「此処で、………此処で今日………ナオミさんと逢う約束になっていたんです」
「え? ナオミと此処で逢う約束に?」
「ええ、そうです、………それも今日だけじゃないんです。今まで何度もそうしてたんです。………」
だんだん聞くと、私たちが鎌倉へ引き移ってから、彼とナオミとは此処で三度も密会していると云うのでした。