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ちじんのあい
痴人の愛
谷崎 潤一郎
「大阪朝日新聞」1924(大正13)年3月~5月<br>「女性」1924(大正13)年11月~1925(大正14)年7月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 179,399 字 · 353 页
又、平素は非常にその肌を秘密にすることを知っていて、たとい僅かな部分をでも、決して無意味に男の眼には触れさせないようにしていたことです。誰にでも許す肌であるものを、不断は秘し隠しに隠そうとする、―――これは私に云わせると、確かに淫婦が本能的に自己を保護する心理なのです。なぜなら淫婦の肌と云うものは、彼女に取って何より大切な「売り物」であり、「商品」であるから、場合に依っては貞女が肌を守るよりも、一層厳重にそれを守らねばならない訳で、そうしなければ、「売り物」の値打ちはだんだん下落してしまいます。ナオミは実にこの間の機微を心得ていて、嘗て彼女の夫であった私の前では、尚更その肌を押し包むようにするのでした。が、では絶対に慎しみ深くするのかと云うと、それが必ずしもそうではなく、私がいるとわざと着物を着換えたり、着換える拍子にずるりと襦袢を滑り落して、
「あら」
と云いながら、両手で裸体の肩を隠して隣りの部屋へ逃げ込んだり、一と風呂浴びて帰って来て、鏡台の前で肌を脱ぎかけ、そして始めて気が付いたように、
「あら、譲治さん、そんな所にいちゃいけないわ、彼方へ行ってらっしゃいよ」