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ちじんのあい
痴人の愛
谷崎 潤一郎
「大阪朝日新聞」1924(大正13)年3月~5月<br>「女性」1924(大正13)年11月~1925(大正14)年7月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 179,399 字 · 353 页
なんて呼びつけにしないで、『ナオミさん』と呼ぶか」
「呼ぶ」
「きっとか」
「きっと」
「よし、じゃあ馬でなく、人間扱いにして上げる、可哀そうだから。―――」
そして私とナオミとは、シャボンだらけになりました。………
「………これで漸く夫婦になれた、もう今度こそ逃がさないよ」
と、私は云いました。
「あたしに逃げられてそんなに困った?」
「ああ、困ったよ、一時はとても帰って来てはくれないかと思ったよ」
「どう? あたしの恐ろしいことが分った?」
「分った、分り過ぎるほど分ったよ」
「じゃ、さっき云ったことは忘れないわね、何でも好きにさせてくれるわね。―――夫婦と云っても、堅ッ苦しい夫婦はイヤよ、でないとあたし、又逃げ出すわよ」
「これから又、『ナオミさん』に『譲治さん』で行くんだね」
「ときどきダンスに行かしてくれる?」
「うん」
「いろいろなお友達と附き合ってもいい? もう先のように文句を云わない?」
「うん」
「尤もあたし、まアちゃんとは絶交したのよ。―――」
「へえ、熊谷と絶交した?」
「ええ、した、あんなイヤな奴はありゃしないわ。―――これから成るべく西洋人と附き合うの、日本人より面白いわ」