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ちじんのあい

痴人の愛

谷崎 潤一郎

「大阪朝日新聞」1924(大正13)年3月~5月<br>「女性」1924(大正13)年11月~1925(大正14)年7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 179,399 字 · 353 页

青空文庫

これは一つには、ナオミが国の方の思わくを心配している様子でしたから、彼女に安心を与えるためと、私としても公明正大に事件を運びたかったので、出来るだけ母への報告を急いだ訳でした。私は私の「結婚」に就いての考を正直に述べ、どう云う訳でナオミを妻に持ちたいのか、年寄にもよく納得が行くように理由を説いて聞かせました。母は前から私の性格を理解しており、信用していてくれたので、

「お前がそう云うつもりならその児を嫁に貰うもいいが、その児の里がそう云う家だと面倒が起り易いから、あとあとの迷惑がないように気を付けて」

と、ただそう云っただけでした。で、おおびらの結婚は二三年先の事にしても、籍だけは早く此方へ入れて置きたいと思ったので、千束町の方にも直ぐ掛け合いましたが、これはもともと呑気な母や兄たちですから、訳なく済んでしまいました。呑気ではあるが、そう腹の黒い人達ではなかったと見えて、慾にからんだようなことは何一つ云いませんでした。

そうなってから、私とナオミとの親密さが急速度に展開したのは云うまでもありません。まだ世間で知る者もなく、うわべは矢張友達のようにしていましたが、もう私たちは誰に憚るところもない法律上の夫婦だったのです。