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ちじんのあい
痴人の愛
谷崎 潤一郎
「大阪朝日新聞」1924(大正13)年3月~5月<br>「女性」1924(大正13)年11月~1925(大正14)年7月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 179,399 字 · 353 页
、種を蒔いたり、水をやったりしましたけれど、それも一時の気紛れに過ぎませんでした。
「あーあ、つまらないなア、何か面白い事はないかなア」
と、ソオファの上に反り返って読みかけの小説本をおッぽり出して、彼女が大きく欠伸をするのを見るにつけても、この単調な二人の生活に一転化を与える方法はないものかと、私も内々それを気にしていたのでした。で、あたかもそう云う際でしたから、これは成る程、ダンスを習うのも悪くはなかろう。もはやナオミも三年前のナオミではない。あの鎌倉へ行った時分とは訳が違うから、彼女を立派に盛装させて社交界へ打って出たら、恐らく多くの婦人の前でもひけを取るような事はなかろう。―――と、その想像は私に云い知れぬ誇りを感じさせました。
前にも云うように、私には学校時代から格別親密な友達もなく、これまで出来るだけ無駄な附合いを避けて暮してはいましたけれど、しかし決して社交界へ出るのが嫌ではなかったのです。田舎者で、お世辞が下手で、人との応対が我ながら無細工なので、そのために引っ込み思案になっていたものの、それだけに又、却って一層華やかな社会を慕う心がありました。