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ちじんのあい

痴人の愛

谷崎 潤一郎

「大阪朝日新聞」1924(大正13)年3月~5月<br>「女性」1924(大正13)年11月~1925(大正14)年7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 179,399 字 · 353 页

青空文庫

―――ねえ、やらせてよう!」

「お前はいいが、僕が覚えられるかなア」

「大丈夫よ、直きに覚えられるわよ」

「だけど、僕には音楽の素養がないからなア」

「音楽なんか、やってるうちに自然と分るようになるわよ。………ねえ、譲治さんもやらなきゃ駄目。あたし一人でやったって踊りに行けやしないもの。よう、そうして時々二人でダンスに行こうじゃないの。毎日々々内で遊んでばかりいたってつまりゃしないわ」

―――ナオミがこの頃、少し今までの生活に退屈を感じているらしいことは、うすうす私にも分っていました。考えて見れば私たちが大森へ巣を構えてから、既に足かけ四年になります。そしてその間私たちは、夏の休みを除く外はこの「お伽噺の家」の中に立て籠ってひろい世の中との交際を断ち、いつもいつもただ二人きりで顔を突き合わせていたのですから、いくらいろいろな「遊び」をやって見たところで、結局退屈を感じて来るのは無理もありません。ましてナオミは非常に飽きっぽいたちで、どんな遊びでも初めは馬鹿に夢中になりますが、決して長つづきはしないのでした。そのくせ何かしていなければ、一時間でもじっとしてはいられないので、トランプもいや、兵隊将棋もいや、活動俳優の真似事もいや、となると、仕方がなしに暫く捨てて顧みなかった花壇の花をいじくって、せっせと土を掘り返したり