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いしかりがわ

石狩川

本庄 陸男

「石狩川」大観堂、1939(昭和14)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 253,535 字 · 506 页

青空文庫

浜にくだける浪の音がざあッとひびいた、それが蜿蜒とした海岸のかなたまで、次々に、逆立ち、崩れ、消えて行くのが、なぜか漂渺と、目に見えるようであった。するとまた、逆まく浪が目の前に立ちあがり、だアーんと砕けた。――気づいたように誰かが呟いた。

「別に、どうも」

云うべきこともない――二人の論争は、自分の胸の右と左に過ぎないと思われて来た。ここで繰りかえすまでもなく、今日までには千度も自分の胸で追求したことであった。すべからく善処して貰えばそれで満足すべきであった。

「よろしく――」と、その男は顔をあげずに求められる意見を押しかえした。

「では、拙者、かわって」と安倍誠之助が充血した赤い顔をまッ直ぐに立てた。

「いかにも」

「冷静に、腕をつかねておられないときになっております、一刻を争わねばならないときになって――」

「なるほど、それで?」

「身どもらはどうなっても悔むことはない、年齢もわかい、どうにでもなる――けれど、女子供をひきつれ、おおぜいの家族をかかえたものはどうなりましょう? 時世は、うしなわれた家禄を復活させることはあり得まい、人は平等を宣言されたのに、しかし、われらのところでは、実のない君臣の名に縛られて、この曠野に、あてのない彷徨をつづけている、解放してやらねばなりませんよ、阿賀妻さん?」