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いしかりがわ

石狩川

本庄 陸男

「石狩川」大観堂、1939(昭和14)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 253,535 字 · 506 页

青空文庫

汗ばんだ他人の体に思わず腕を触れ、怒りとも笑いともつかぬ賑かな喚きがどっと各所に湧き起った。

「やあーい、さっさと、餅ば――撒けえッ」

そう叫ぶ声があった。

「うおーッ」と人々のうめき声がそれに和した。

図星をさされたように群集は梁のうえにある祭壇を見あげた。そこでは阿賀妻が立ちあがって、白木の三方をかかえるところであった。その上にのっている白と赤の大きなすみ餅がぱッと眼に映るのであった。集まったものは一度におーと吼った。どっと東の隅にかたまった彼らの折り重なった顔は、むらがり咲いた名も知らぬ野の花のようなものだ。さしあげた手は風に吹かれる穂波であった。口々に何かを大ごえに叫んでいる。ひろげた指は掻き寄せようと、鈎になったり熊手になったりしてあがいている。しかし彼らの願望は上までは届かなかった。阿賀妻はその祝い餅をつかむや否や、槍を投げるような――胴をはらうような身のこなしで、首をひねる間に、すでに抛っていた。餅は黒いかたまりになって線をひいてすっとんだ。あわててうしろ向きになったのであるが、もう遅かった。はじめから遠慮して後の方にいた彼らの家族の前にそれはずしんと墜ちていたのである。