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いしかりがわ

石狩川

本庄 陸男

「石狩川」大観堂、1939(昭和14)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 253,535 字 · 506 页

青空文庫

槍のかわりに草刈り鎌を揮い、ふりかぶるのは刀ではなくて鉞であったり、銃をかつぐ肩には駄荷をのせていても、心はこの一挙手一投足に清冽な熱情をこめていた。生と死におのれの片足ずつを托して自若たらんとするこういう日のために、彼らは、幾代とない遠い昔からそう躾けられ、そう鍛えられ、また自らも意識して鍛えて来た。

しかも千古斧鉞を知らぬこの山々は、敵に迎えても不足はなかったのだ。

「しかし、えらく、なかなか、繁ったものじゃ」

そう云って、戸田老人は熊笹のなかに姿を没した。曲った根に足をとられて転げたのだ。やりきれんとは決して云わなかった。弱音は吐かなかったが先頭をきることだけはあきらめた。笹を刈り分けるべき彼の鎌は白い刃を向けてあぷあぷしていた。多年のあいだ風雪をくぐって生きた熊笹である。それが密生し、根と茎とを参差させ、すき間もなく原野を蔽うてつづいていた。地は熊笹に占有されて。人間はそれを刈り取って、彼の意志する一条の路をつくろうとするのである。地に足のうらをつけて歩くことだけは全くあぶなげのないことを知っていた。だから先ず、熊笹の層になったこの繁みをむしり取って、その底にある地をむきだそうとおし寄せて来た。