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いしかりがわ
石狩川
本庄 陸男
「石狩川」大観堂、1939(昭和14)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 253,535 字 · 506 页
しかし、この草屋の聚落に帰って来て、ひと月に近い日を傍目もふらず費し、わずかに五里何町かの道路をひらいた彼らの力を目の前に見たとき、その食糧を請負仕事で稼いだ金で買い集めている自分をふりかえったとき、ふッと、やっぱりそれはその通り廃藩にきまったのだと考えた。その二つの間にどういう推論があったか自分ながら判らない。判っていることは、この結果を否定し、反駁する論拠が、新政府のやり方には勿論、驚いたことには、自分自身の気持にさえ消えていたことだ。
だまって聞いていた邦夷は、阿賀妻の言葉がきれてから暫くして一言云った。
「そうか」
それで総てであった。つまり彼らは、それ以外に云うべき言葉を何一つ持ち合していなかった。無惨な立場に追いつめられていたというべきだろう。それにも拘らず阿賀妻は云わずにいられないものを感じた。
「しかし――」
邦夷は軽く首をふってそれを抑えた。云われるまでもなく無駄なことは知っていたのに、最初は家宰の阿賀妻が万一の僥倖を願う気持になっていた。蝦夷は化外の地であるという昔の観念が頭のなかに残っていたのである。化外の地の原始林にはいった彼らには、捨てて来たあちらの土地に起った変化は関係ないものと考えたかった。