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いしかりがわ
石狩川
本庄 陸男
「石狩川」大観堂、1939(昭和14)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 253,535 字 · 506 页
「そう云ったものでもない」
「と、それはご家老、貴殿はそう云わねば納らぬ立場、お察しいたします、――さりながら、大沼どの、中島どのに托されたあちらの便りには嘘はございますまい、ひどうございますそうな、人間のくらしでは無いげにございますそうな――身どもらも、婿の――まった、わが娘の消息を心待ちにしておりました、なれど、あやつめら、何と思うてか、この舅――この父に、一本の書状も托しておりませなんだぞ、わが婿ながら、あやつは好学の徒でございましたでのう、いつぞやは殿のお見だしにあずかって、ご記録役に玉目三郎を――と、ほほう、ご存じ置きでございましたか、ありがとうございます」
「存じておる」と阿賀妻は盃をおいた。
彼は何ということなしに正面の邦夷を見あげた。飲めば飲むほど蒼ざめる彼の顔には表情の取り立てた変化はなかった。だが、胸底はあれていた。
篠崎彦助は阿賀妻との間に挾まっている膳を傍らに押しやって、膝をつきつけるように近よった。声をひそめて彼は云うのだ。
「ご家老、云うてやって下され、今は身どももさらりと心は解け申した、娘は嫁してしまえば玉目家のもの、そのあるじが、一旦こうと思い立った蝦夷地渡りに、何で舅が楯つきますものぞ、のう――われらのような年寄りは菩提寺のほとりで睡らせるが、これが功徳というものじゃ、ただそれ