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いしかりがわ
石狩川
本庄 陸男
「石狩川」大観堂、1939(昭和14)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 253,535 字 · 506 页
「――――」
「開拓使貫属としてお届けにまいった――」と彼は追っかけて名乗った。
「もと仙台藩、旧岩ノ山城主伊達邦夷の家臣、阿賀妻と申す、取り次ぎなさい」
玄関をあずかる下っぱの役人らは、棒立ちになったままうんうんとうなずいた。向うから先手をうって、いんぎんに名乗りあげられてしもうたのだ。
「取り次ぎなさい」
阿賀妻はそのうちの一人を覗きこんで命ずるように云った。
「いや、はあ――」と彼は頭を低げていた。彼は小さい声で「開拓使貫属――」とつぶやきながら衝立のあちらに消えた。その他のことは耳にとまっていなかったに相違ない。残った仲間は直ぐに散らばって、足音もなく壁の下を歩きだした。
阿賀妻は衣紋をただして待っていた。
彼のうしろから、さッと風を切ってどやどやとはいって来たものがあった。守衛のものらはぎょッと入口に向って身構えた。けれどもみんな顔見知りの役人どもであったのだろう。親しげに冗談をたたいて奥に通った。
それからまた二三度、自分の用に熱中しているようなわかい役人がわき見もせずに彼の前を往来した。
阿賀妻は傍らに寄って立っていた。
入れちがいに、洋服の太った男があかい八字ひげをぴくぴくさせて出て来た。