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いしかりがわ
石狩川
本庄 陸男
「石狩川」大観堂、1939(昭和14)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 253,535 字 · 506 页
「阿賀妻さん」
「何ですか?――われらにとって、時世の悪いのは、そもそもの初めの日からのことでございました、いま、ますます悪いと申されるならば、これは、まことに、初志一貫というものでござる、ご安心下さい」
「そ、そう仰言ることが、ですよ」
「しかし堀さん、われら、協わぬのぞみを無理に徹そうとしているのでしょうか、開拓使が、もし、夷人のお雇い教師一人に一万ドルを支払うというのならば――ですよ、同じ日本人である身どもらに、一人ではない、三百何十人かの生命をつなぐために――ですよ、申し込んだ一万円くらいの金は、どうとも、貸付け得るものだろうと、ひそかに考えていたものです、正直の話――そうじゃアありませんか、あなたも、サッポロの判官どのも」
「しかし――」
「――その夷人というのが、堀さん、先日まであなたが、明日にもしめ殺さねばならんという風に云われとったあの夷人と――メリケンとかオロシャとか、国がらは少しはちがうかも知らんが、毛唐ちゅうことには、変りはないでございましょう? あっちの紅毛人は侵略ご随意、こっちの紅毛人は教師さま、さま、それで国が立ちますか、――それも彼らが進んでいることゆえ是非ない、しのばねばならぬことと致しましょう、ただ今回のわれわれの請願は、あなたもご承知の通り」