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いしかりがわ

石狩川

本庄 陸男

「石狩川」大観堂、1939(昭和14)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 253,535 字 · 506 页

青空文庫

「しかし――」

「聞けば十力年計画の予算も決定されとるそうじゃありませんか、太政大臣じきじきの権勢を持たれるあなたが――」

阿賀妻は低いこえでそう云った。じろじろと眺めまわす彼の視線は、堀の昂奮を洗いあげたのである。彼は常の日の顔色にかえっていた。

呼ばれた役人たちがはいって来たので堀は云った。

「米村さん、ケプロンの報告では、移民のことはどうなっていました?」

米村は眼をみはって阿賀妻を視た。けれども直ぐ自分に気づいてそこに膝まずいた。

「強制移民は控えた方がよろしいと云われていました、が」と、太ったあの鈴木が代って答えた。

「それについて何かあんたのところに報告が集まッとりゃせんか」

「一つだけ、あるんですね、そのことに関する県当局から来たそいつが――」

鈴木隆助はまるい身体を揺ぶって、堀を見、それから阿賀妻を見るのだ。

「どれ」と堀は手をのばした。

鈴木は書類を渡しながらまた阿賀妻に目をそそいだ。

「身どもの国許のことででもござるのか」

「さよう――」と堀は指につばをつけて罫紙の文字に目を走らせながら云った、「阿賀妻さん――ここに、失礼だが、あなたの足もとの、あなたの家中に、強制移民の無理がある」