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いしかりがわ
石狩川
本庄 陸男
「石狩川」大観堂、1939(昭和14)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 253,535 字 · 506 页
と高倉は唇をゆがめるようにして云った、「気の毒だが、ここにはおられぬ」
「へえ」
「何かご用か? いずれ商人どもの用というならば」
高倉はいくらか見下げた口調でそう云った。商人は首を振って遮った。
「どちらにお出かけになりやした?」
「どこに行こうと、手前らに関係はない、何か用か?」
「用ですとも」
言下にそう云われて高倉はどきんとした。
「どういうご用か?」
「会えばわかるんだ、大切な書状をあずかっているんだがね」
「どら?」
そう手をだした高倉から、商人は一足うしろにとび退った。今や彼には相手のこづら憎さがはっきりした。よく見ると、これは、前髪がやっと落ちた青ざむらいであった。さむらいと思ったから、そういう横柄な云い方にも我慢したのだ。けれども、考えてみれば、今ではさむらいも百姓も無い。こんな青二才を、むざむざ威張らせる手はなかった。同時に彼は、はいはいとこれを渡したならば、商売のひっかかりが無くなってしまいそうな気がした。
「と、云って、あなたさまは、誰方でございますか」
「身どもは、この家中のもの、高倉祐吉と申す――どれ?」
「それにしても」と商人はふところを抑えて云った、「相田さま直き直きにお渡ししろ――と、イシカリ役所の官員さまに仰せつかりまして、――つまらぬ旅あきんどながら、そう頼まれてみますと、何しろ」