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いしかりがわ

石狩川

本庄 陸男

「石狩川」大観堂、1939(昭和14)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 253,535 字 · 506 页

青空文庫

ときには明らかに脅えたように警戒していた。それを、慶事々々とさわぎ立てる家中のものまで、内心腹立たしくてならぬのである。しかもその使者に取り残されたのが最も情なく、地団駄をふむ思いであった。

この自分を、誰かどうにかしてくれんか――喘えぐようにそう心の底に叫んで、彼はぎょろぎょろと周囲を見まわした。

越後から来た鋸の行商人は、そう云うときにはいって来た。

「やれ、やれ――」

彼は気軽るに土間に立ってそう云った。明るすぎる雪やぶに馴れた眼を強くまたたいて、暗い屋内の光りに調和させながら頭巾を取った。彼の頭からは白い湯気がもくもくと立ちのぼった。汗をかいていた。

「今日は――えらい路でがんすな」

「誰だ?」

高倉はにべもなく咎めるように云った。

目を見はって、商人はようやく相手の様子をはっきり見定めた。

「鋸屋でがんす」と、彼は、背中の荷を壁ぎわにずりおろした。

「何しにまいった?」

「あきんどでがんすよ、だんな」と彼は揉み手で、愛そ笑いを浮べて、「それに――」と首をかしげた。

高倉は炉ばたでこちらに向き直った。

「相田さまのお宅はどちらでがしょう?」

「相田どの? 相田どのは、な」