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いしかりがわ

石狩川

本庄 陸男

「石狩川」大観堂、1939(昭和14)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 253,535 字 · 506 页

青空文庫

けれども彼が云いださないうちに鋸屋が何か喋っていた。

それをしおに高倉は立ちどまった。

「なんだ?」

「わしは、心をきめやした、行き斃れにならない前に、ここらで、夜ごもりしてえです、ね」

「夜籠り?」

「足は棒でさ、わるいことは云わねえです、力のあるうちに方法をたてましょうぜ」

「しかし、もう一歩だ」

「その一歩が――」と鋸屋は縺れ舌を捌きながらゆっくり云った、「まアま、年の功に免じて、わしの云うことをきいておくンなさい、ここらが決心のしどころだ――ようがすか、ここに穴を掘って」

旅に馴れた男は、雪の穴でも、はいれば温かいと語るのだ。彼はのろのろ荷物をおろした。その中から細身の鋸を取り出した。崖の雪を挽こうとするのであった。それは層々と積まれてかたく凍結していた。

吹雪は逆にまき返って、掬くうように下から吹きつけていた。

高倉は脇差を抜いた。かたい雪をこじりあげるように削りだした。

なん時かそれをつづけた。穴は少しずつ大きくなっていた。ほのかな雪あかりに、手さぐりの横穴が黒い口をひらいた。

突然、鋸屋が鋸を取りおとした。ぱりんと氷にころげかかった金属の音で、高倉ははッとふりかえった。