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どうひょう
道標
宮本 百合子
第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页
なお自分でこめかみを揉みながら、
「どうだい、吉見さんは来ますか?」
「迎えに来てくれるんですって、よかったわ」
「そりゃよかった。一人で帰るつもりなのかと思っていたところだ」
泰造の様子を眺めていた伸子は、立って父の椅子のうしろにまわって行った。
「お父さま、わたし頭をもむのがうまいのよ、すこし揉みましょう」
泰造の頭は、左右の角を円く充実してよく発達していた。脳天のところが、よくみのった実の丈夫な殼のようにしまって低くなっている。泰造のその頭は、マッサージしている伸子の指さきに今夜はのぼせをつたえ、伸子が子供のときからかぎ馴れているオー・ド・キニーヌの匂いがする。あったかくて、重くて大きい父の頭にさわるのは、何と久しぶりだろう。伸子は、麻のハンカチーフごしに、父のはげた頭へ自分の頬をふれた。
「お父様も、御苦労さま」
「うちの連中にも困ったもんだ。みんながてんでに勝手なことばかり云っている」
父のうしろに立っていて、その頭をマッサージしていることは、伸子を口のききやすい位置においた。泰造にしても同じ工合らしかった。
「和一郎にも困る」
それは体裁をつくろったところのない云いかたであった。