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どうひょう
道標
宮本 百合子
第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页
泰造は、しばらくだまっていたが、
「それもよかろう」
と云った。
「徹底するまでいて見るのもよかろう」
伸子は非常にびっくりした。泰造は、自分の云うことが、どういうことを意味するかを知らずに云っている。モスク※(濁点付き片仮名ワ、1-7-82)で、その社会主義の社会生活に徹底すると云えば、階級的な自身の立場を決定するということでしかない。もちろん、泰造自身は、気のすむまでというほどの意味で云っているのだった。そうとわかってきいていながら、モスク※(濁点付き片仮名ワ、1-7-82)の生活について徹底するまでという泰造の何気ない言葉から、伸子は衝撃を感じる自分としてのこころのそよぎをもっている。自身で云ったひとことが、パリの、この夏の夜更けの露台のそばでモスク※(濁点付き片仮名ワ、1-7-82)から来ている娘の、どんな思いに通じたかと知ったら、こんどは泰造が強い衝撃をうけずにいないだろう。伸子のおどろきは、自分の心の内外を感じ合わせて、深いのだった。
伸子と素子とが、ペレール四七番地のアパルトマンを出て、同じブルヴァールの並木はずれに洒落た軒ランプを出している小さなホテルに部屋をとったのは、かれこれ午前一時だった。