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どうひょう
道標
宮本 百合子
第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页
感じられた。
「お父様が、その育英資金に加わって下すったの、ありがとうございました」
その晩、一日の終りにいつもそうして時をすごすとおりアーク燈にてらされている公園の木立を見おろすホテルの部屋の窓ぎわに立って、伸子は、公園の散歩で父からきいたことを思いかえしていた。
悲しみと名づけられるこころもち、涙ぐむこころもち、そういう感傷は、佃が亡くなったときいたときから、伸子のなかになかった。しんとして、まじめにひきしめられた思いがあった。――佃の生涯は終った――佃の生涯は終った――その思いをたどっているうちに、伸子の心は自覚されていなかった一つの区切りのようなものを見出した。佃と自分とのいきさつは、完結した。その事実の新しい確認がある。
伸子は、これまで、佃に対して、何かの責任を感じながら暮していたのだろうか。伸子にそんな意識はなかった。だけれども、思いがけず佃の亡くなったしらせをきいた今、伸子の心のうちに強くなりまさるのは「完結した」という意識だった。伸子が何もしらなかった今年の四月のあるときに、伸子の過去の生涯に、一つの大きいピリオドがうたれた。伸子はきょうまで何もしらないままモスク※(濁点付き片仮名ワ、1-7-82)を出発して、ロンドンへ来た。