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どうひょう
道標
宮本 百合子
第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页
あなたは、日本の冬を御存じだから……」
伸子はすこし別の意味をふくめて、ほほ笑みながら云った。
「日本の雪見の味をお思い出しになるでしょう?」
「おお、そうです。ユキミ――」
クラウデは、瞬間、遠い記憶のなかに浮ぶ絵と目の前の生活の動きの間に板ばさみになったような眼つきをした。しかしすぐ、その立ち往生からぬけ出して、クラウデは、
「サッサさん、是非あなたに御紹介したいひとがあります。いつ御都合いいでしょうか」
と云った。伸子は語学の稽古や芝居へゆく予定のほかに先約らしいものもなかった。
「そうですか、では、木曜日の十五時――午後三時ですね、どうかわたしのうちへおいで下さい」
クラウデは小さい手帖から紙をきりとって伸子のために自分の住所と地図をかいてわたした。
ボリシャーヤ・モスコウスカヤと並んで、大きく古びたホテル・メトロポリタンの建物がクレムリンの外壁に面してたっていた。約束の木曜日に、伸子はその正面玄関の黒くよごれた鉄唐草の車よせの下から入って行った。もとはとなりのボリシャーヤ・モスコウスカヤのように派手な外国人向ホテルだったものが、革命後は、伸子の知らないソヴェトの機関に属す一定の人々のための住居になっている模様だった。