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どうひょう

道標

宮本 百合子

第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页

青空文庫

伸子にぜひ面会したき由。九月二十九日午後来訪の予定。と走りがきされている。千種清二というひとの住所には、日本大使館がかかれていた。

名刺を手にもったまま伸子は、気がすすまなそうに、ちょっとだまって立っていたが、

「ありがとう、マダム・ルセール。わたしが彼に会います」

伸子は入口に行ってみた。そこに立っているのは、二十四、五に見える、陰気そうな青年だった。伸子は、友達に不幸がおこって、すぐ出かけるところだからとことわって、客間へ案内した。つや子が、あわてて画架の上のカンヴァスをうらがえしている。伸子は、むしろつや子にいてもらいたかった。

「いいのよ、そのまんまで、つや子さんも失礼してここにいたら?」

客間におちついたその青年を見ると、泰造がうけとって来た名刺と、そのひとからじかに伸子がうけとる感じとの間に、ちぐはぐなものがあった。パリ駐在の日本大使館の人たちといえば、書記官の増永修三だけがそうなのではなく、書類をあつかっている窓口の人々まで、なかなか気取っているのが特徴だった。ベルリンの日本の役人は官僚的に気取っていたが、パリのそういう日本人たちは、その人たちだけにほんとのフランスの洗煉がわかっているというように気取っているのだった。