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どうひょう

道標

宮本 百合子

第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页

青空文庫

「わたしは、ここにブハーリンさんのお父さんと住んでいます」

と云った。

「ブハーリンさん、御存じでしょう? あのひとのお父さんがこの室にいます」

伸子はあきらかに好奇心を刺戟された。伸子がよんだたった一つの唯物史観の本はブハーリンが書いたものであったから。

「ブハーリンの本は、日本語に翻訳されています」

伸子は、ちょっと笑って云った。

「お父さんのブハーリンも、やっぱり円い頭と円い眼をしていらっしゃいますか?」

単純な伸子の質問を、クラウデは、何と思ったのかひどく真面目に、

「ブハーリンさんのお父さんは立派な人ですよ」

と、なにかを訂正するように云った。

「わたしたちは、一緒に愉快に働いています」

しかし、伸子はちっとも知らないのだった、三重顎のクラウデが、現在モスク※(濁点付き片仮名ワ、1-7-82)でどういう仕事に働いているのか。――

クラウデは、ちょいちょい手くびをあげて時計を見た。

「サッサさん、もうじき、もう一人のお客様もおいでになります。わたくし、用事があって外出します。お二人で、ごゆっくり話して下さい。……それでよろしいでしょう?」

クラウデにとってそれでよいのならば、伸子は格別彼にいてもらわなくては困るわけもなかった。