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どうひょう
道標
宮本 百合子
第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页
「ムシュウ・アチヤ」
Hの音をフランス流のアに発音して、きいた。
「マドモアゼルは何と云っていらっしゃいますの?」
「わたしは、マスコットをホテルへ忘れて来てしまったんです」
「まあ。どんなマスコット?」
フランシーヌの英語は、ぎごちなくて、ひどく鼻にかかった。
「白い猿」
フランシーヌは、ちらりと蜂谷を見た。おとなぶった娘の眼づかいだった。すぐにも一人で戻って行って、忘れものをとって来ようとする気持、それもあわただしすぎると思う気持。伸子はその二つの気持で迷った。
「そんなに気になるんなら、もう少したったら、どうせみんなで市内へ出ようと思っていたところだから、そのついでによって見たらいいじゃないですか」
伸子が引越して来たおちかづきに、ジャックが店から帰って来たらフランシーヌと四人づれで、支那料理をたべに出かけようというのだった。
支那料理ということで、伸子はまた困った。日貨排斥がはじまってから、伸子はパリの中華人たちが、日本の帝国主義にひっくるめて、日本人一般に反撥をもっていることを当然だと考えていた。料理店を開いているからには、客として誰が行こうとそれでいいのだろう。