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どうひょう
道標
宮本 百合子
第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页
その街は古風で、商店は三階建てで雪の中に並び、雪の匂いと微かな馬糞のにおいがしている。伸子たちののっている橇は、国立音楽学校の鉄柵の前を通りすぎ、やがて右側のひろい段々のある建物の前へとまった。
三人で、その低い石段をのぼるとき、素子が何かのはずみで雪の上で足をすべらし、前へのめって、段々に手袋をはめた手をついた。素子はすぐ起き直った。そのまま表玄関に入った。
そこがВОКСの建物であった。防寒靴を下足にあずける間も伸子は深い興味をもってこの二十世紀初頭の新様式(ヌーボー)で建てられている建物を見まわした。いずれは誰かモスク※(濁点付き片仮名ワ、1-7-82)の金持の私邸として建てられたものだろう。表玄関からホールを仕切る大扉の欄間がステインド・グラスで、そこにはカリフォルニア・ポピーのような柔かい花弁の花が、大きくその蔓を唐草模様にして焼きつけられている。そのステインド・グラスの曲線をうけて、見事な上質ガラスのはまった大扉の枠も、下へゆくほどふくらみをもった曲線でつくられていて、華やかなガラスの花をうける葉の連想を与えられている。すぐとっつきに表階段があった。