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どうひょう
道標
宮本 百合子
第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页
ことづかって行ったつや子から、果して素子がその袋をうけとったのかどうか。それが気に入ったのか、いらなかったのか。土産ぶくろが黙殺されていることで、伸子は自分がパリにのこったことについて素子の不賛成を感じとったのだった。
伸子は、あてこすりで自分の行動が支配されるのをこのまなかった。年を重ねた素子との生活のうちに、そういう場合がなかったからではなく、反対に、伸子はいまは自分の卑屈さとして、そういう場合をうけ入れすぎていたと思いかえしているのだった。伸子は妻というもののそういう立場に堪えがたくて佃と離婚した、それと同じような素子からの暗黙の制約を素子が女だからということでうけいれるというのは、おかしなことだった。
いま、こんな手紙をかく素子が、それならロンドンから、どうしてあんなにあっさり伸子をのこして立って行ってしまったろう。はたと思いあたるという、その字のとおりに思いあたって、伸子は息のとまるような気がした。あのとき、ロンドンには佐々の一行がみんないた。その家族的な環境を伸子の安全保障のように素子は考えたのだ。だから、親たちがパリにいた間は、伸子がパリにいることも、素子を不安にすることではなかったのだ。