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どうひょう

道標

宮本 百合子

第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页

青空文庫

簡単に考えていた荷づくりが案外ごたついた。親たちがパリを引きあげるときペレールのアパルトマンの食堂のテーブルの上へ、敷布類だのテーブル・クローズ類をのこして行った。伸子の数少い手まわりのどこにもそれらを入れる余地がなくなって、蜂谷良作が下宿へもどって伸子のために中型鞄を一つもって来てかしてくれた。そんなごたつきの合間合間に、蜂谷は、自分ひとりパリにのこされる事情になったことを歎いた。

ベルネの家の二階の、伸子の室の床の上で画集をつめた紺色のトランクに鍵をかけながら、蜂谷は訴えた。

「こんなに、きみを離したくない僕が、誰よりもきみの出発を手つだっているなんて――」

きのう百貨店ルーヴルへ一緒に行って、伸子がそのトランクを買う手つだいをしたのも蜂谷だったし、モスク※(濁点付き片仮名ワ、1-7-82)までの切符をととのえたのも蜂谷だった。

「これから、僕はひとりで、パリで、どうして暮していいのか、わからない」

伸子は、一旦平らにして入れた敷布を又とり出して、こんどはくるくるまいて借り鞄のよこへつめこむ手をやすめずにいうのだった。

「だって、蜂谷さんはもう二年もパリで暮したんじゃないの、わたしのいたことの方が偶然だったんです。