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どうひょう

道標

宮本 百合子

第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页

青空文庫

あなたはちゃんと暮せてよ」

「だから、佐々さんには分っていないんだ、きみがいなかったときはいなかったときだ、まるで、今とはちがう」

「じゃあ、どうすればいいと思うの?」

おこった瞳になって、伸子は蜂谷の、悲しげなしかめ顔を見据えた。

「あなたは、わたしをパリにひきとめようとばかりなさるけれど、いっぺんだって、モスク※(濁点付き片仮名ワ、1-7-82)へ行こうとはおっしゃらなくてよ、知っていらっしゃる? そのこと。――」

窓に向って衣裳箪笥と壁との間に、窮屈にはさまれているデスクの上から伸子はこまごまとした手帳、文房具、手紙の束などをもって来て、女持ちの旅行ケースにつめはじめた。ケースには、パリ、ロンドン間の飛行機でとんだときの赤と白とのしゃれたラベルが貼られている。

「ね、わたしたちは、ぎりぎりまでお互を知りあったのよ、それはそう思えるでしょう? そして、わたしはもうモスク※(濁点付き片仮名ワ、1-7-82)へ帰る時だということが、はっきりしたんだわ――惰勢で、お互を妙なところへ引きずりこむなんて――それは、わたし、したくないの」

「そうだ、きみは――そうなんだ」