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どうひょう
道標
宮本 百合子
第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页
その行程、その小停止、小発進は、不思議に伸子の心をゆすった。ヨーロッパで、伸子はいくつもの国境を通過した。あるところで、国境は彼女にとって、そこから、役に立たなくなった数箇の銀貨と、それに代って食堂車の真白いテーブル・クローズのはじに並べられた、別の銀貨の数片としてあらわれた。それらのところにはいつも気ぜわしい人々があった。屋根と屋根との間に、国境があった。
こんなにひろく無人で、樅林と草地と地平線しかない地帯、その地点をこうして列車は、儀式をもってのろのろとすぎつつある。機関車の重苦しいひと喘ぎごとに、旧いヨーロッパはうしろになる。前方から新しい土地、ソヴェト・ロシアがひろがって来る。きりひらかれた草地の上で樅林の右側の出口が緑の壁のようになって遠ざかった。左側の樅の林の入口が近くなって来る。伸子は、窓に向って立ったままいつの間にかネッカチーフの前で握りあわせていた両手をきつく胸におしあてた。伸子は、ひびきとして感じたのだった、舞台がまわる、と。――その舞台を選択してかえって来ている自分。パリをはなれて来た自分。その自分というものが確信されるのだった。