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どうひょう

道標

宮本 百合子

第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页

青空文庫

三

伸子はパリやロンドンにいるうちに、モスク※(濁点付き片仮名ワ、1-7-82)にあるものの価値をよりたしかに自身の内容にしたのだった。

そのような成長にかかわらず、伸子は、他の一面でおくれた。一九二九年という特別に歴史的だった十二ヵ月のなかば以上を、ソヴェト同盟の外の世界に暮していたということで。――モスク※(濁点付き片仮名ワ、1-7-82)へ帰って二三日たつと、伸子は自分のおくれを痛切に感じはじめた。素子は、そういう伸子を注意ぶかく見守っていた。伸子のおくれは、伸子自身でどうなり解決すべき性質のものだということを、無言のうちに示していた。本棚一つのあちら側と伸子のいるこちら側との間に、少くとも1/4半期を意味するでこぼこがある。はっきりと、その差があらわれていること、そこに素子の悪意のない復讐のこころよさがあるようであった。伸子は語学の許すかぎり、新しいソヴェトについての勉強をはじめた。モスク※(濁点付き片仮名ワ、1-7-82)のそういう生活に戻って思いかえすと、ロンドンにあった巨大なうちかちがたい貧富の裂けめと、イースト・サイドに溢れて親から子につづいている歴代の惨めさが、ひとしお伸子の心に迫って来る。