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どうひょう
道標
宮本 百合子
第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页
伸子のところにアーズブカがある。でも、その下にエセーニンはない。よしんばエセーニンの詩の一巻があるとして、それがABCと同じ比重で感情のうちに対立するということは伸子の実感ではわからなかった。伸子はソヴェト社会そのものの力におされて、いつしか感情統一におかれている自分を自覚しないのだった。
だが、石田重吉は、ABCとエセーニンとの間に自分の存在をおいて語っているのではなかった。「我々は相川氏との間におかれた距離を明かにしなければならない」「いつの間にか、日本のパルナッスの山頂で、世紀末的な偶像に化しつつある氏の文学に向ってツルハシを打ちおろさなければならない」「敗北の文学を――そしてその階級的土壌を我々はふみ越えて往かなければならない」一九二九年四月。――これが石田重吉の論文の結語だった。
伸子は、その評論をよみ終っても、なおじっと考えこんでいた。それから、もう一度、頁をあけて、最後にのっている小さい石田重吉の写真を見た。眉の濃い、肩幅のひろい、スマートと云われることから遠そうな青年だった。私自身については多くを語りたくない――伸子は、思わずほほ笑んだ。