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どうひょう
道標
宮本 百合子
第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页
論文を支えている階級的な決意の動かしがたさが、その身はもとより富農ではなく、日々モスク※(濁点付き片仮名ワ、1-7-82)の工場や経営で働いているすべての人々にまでなまなましく迫って自分を調べなおさずにいられないこころもちにさせた。そのころ、誰かが誰かと会って「読みましたか?」ときけば、それは「赤い星」の論文のことであった。
伸子がパリにいた間に、素子はオリガ・ペトローヴァという、語学上の相談あいてになってくれる女友達を見出した。素子は一週に一度、数時間ずつ彼女の部屋で過すのだった。オリガの住んでいるのはモスク※(濁点付き片仮名ワ、1-7-82)の町はずれに近いところで、まだ五ヵ年計画の都市計画がそこまではのびて来ない昔風な大きな菩提樹のかげの門の中だった。古びたロシア風の丸木造りで小さい家の下には誰も住んでいず、二階に、三十をいくつか出ている年ごろのオリガが石油コンロ一つ、ブリキのやかん一つという世帯道具で暮していた。食事は、つとめ先の組合食堂ですますのだった。
素子の勉強がすんだころ、散歩がてらに伸子もそこへ行くことがあった。
オリガの故郷は、ミンスク附近のどこかの村だった。